大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)12号 判決 1968年6月29日

岐阜市若宮町一丁目十二番地の三

原告

安田金治

右訴訟代理人弁護士

平井勝也

田中幹夫

名古屋市中村区笹島町一丁目二百二十二番地

被告

名古屋国税局長

坂野常和

右指定代理人

吉実重吉

山下武

岐阜市千石町一丁目十五番地

被告

岐阜北税務署長

鈴木達郎

右被告ら指定代理人

松沢智

山田紘

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実と理由

原告は(一)被告名古屋国税局長坂野常和が原告に対し昭和四十一年十一月十一日付でなした昭和三十九年分贈与税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求を別表のとおり原処分の一部および無申告加算税の賦課決定処分の一部のみを取消し、他を却棄した決定は棄却決定の部分に限りこれを取消す。訴訟費用は同被告の負担とする。(二)被告岐阜北税務署長鈴木達郎が原告に対し昭和四十年十二月十日付でなした金二百五十八万六千三百六十円の贈与税決定及び金二十五万八千六百円の無申告加算税の賦課決定処分(但し名古屋国税局が昭和四十一年十一月十一日付でなした裁決の一部取消部分を除く。)はこれを取消す。訴訟費用は同被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として(一)原告は鋼管等の販売を業とする安田株式会社(旧商号株式会社安田浅之助商店)の代表取締役(専務取締役)である。(二)右会社が昭和三十九年三月行つた増資の際の原告の払込資金の一部金六百三十七万五千二百七十六円について被告岐阜北税務署長は原告の実父である右会社の代表取締役社長安田浅之助より贈与を受けていると認定し、昭和四十年十二月十日金二百五十八万六千三百六十円の贈与税決定及び金二十五万八千六百円の無申告加算税の賦課決定を原告に通知した。(三)原告は右税務署長に右払込資金は原告の所持金、預金、右会社の受領配当金をもつてこれに充てたもので右安田浅之助より贈与をうけたものでないとの理由で昭和四十年十二月二十四日異議申立をしたが、右預金等が右安田浅之助のものであるとの理由で昭和四十一年二月三日棄却せられた。(四)原告は更に同年三月一日被告名古屋国税局長坂野常和に対し右棄却決定に対し右異議申立と同様理由で審査請求をなしたところ、同被告より原告に対し同年十一月十一日付(但し送達は昭和四十二年一月十二日)にて請求の趣旨(一)記載のとおり一部取消し、他は棄却する決定があつた。而して右税額は次のとおり一部取消変更せられた。

(1) 贈与税額金二百四十九万六千三百二十円

(2) 加算税額金二十四万九千六百円

(五) その理由は原告に右預金等が原告のものであると立証する資料がないというにあるが右認定は誤つており審理不尽の違法がある

(六) よつて原告は同被告に対し右審査決定のうち取消されなかつた部分(棄却部分)につき取消を求める。(七)右一部取消を受けた部分以外についての原処分は前記のように贈与を受けないものについて贈与と誤認したことに基くもので違法である。(八)よつて原告は岐阜北税務署長鈴木達郎に対し請求の趣旨(二)記載のとおりの判決を求める。尤も原告は被告ら主張の二口の贈与のうち金九十四万千六十二円の口についてはこれを認めるも金五百四十九万六千十六円の口を争うものである。(1)経験則上銀行より借入をする場合その担保として便宜上借主を預金者とする定期預金をすることは借入の常套手段というべきであつてこの一事をもつて原告が安田浅之助より贈与を受けたと認定することは早計である。(2)原告は右借入前においてもしばしば株式会社十六銀行から不動産又は定期預金を担保として借入をしている。原告は安田株式会社の増資にあたり緊急に金策する必要が生じたもので右銀行より借入をなし、その借人金をもつて増資金としようとしたがその担保として自己所有の不動産を差入れるべく準備したが、たまたま父安田浅之助の架空名義の本件定期預金が余つており、これを担保に使用すれば不動産を担保に差入れる場合と異り不動産登記料等不用の金を使う必要もないので父の了解を得て原告名義で預金してもらいこれを担保に右銀行より金五百九十万円を借出したのが本件の真相である。(3)従つて原告名義で預金をしてもこの預金は依然として安田浅之助の所有であつて原告がその贈与をうけたのではない。(4)被告が認定したごとく原告が安田浅之助より贈与を受けていたとすれば原告は自己の預金を担保として借入をする必要性はない。原告名義の預金となつても所有者は安田浅之助であるからこそ右銀行から借入をしたのである。と述べた。

被告らは原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、被告名古屋国税局長坂野常和は本件につき同被告には被告適格はない。原告は同被告のなした裁決の取消を求めているが行政事件訴訟法第十条第二項によると処分の取消の訴とその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴とを提起することができる場合には裁決の取消の訴においては処分の違法を理由として取消を求めることができない。ところが原告は同被告のなした昭和四十一年十一月十一日付原処分の一部取消の裁決について取消を求めているが、原告が審査請求の棄却された部分の裁決をなお争うとすれば裁決によつて一部取消のあつた原処分の残存部分の取消の訴によるべきであり、右被告に対する訴は不適法で棄却せらるべきである。と述べ、被告らは答弁として、請求の原因たる事実(一)乃至(四)の各点を認め、その余の点を争い原告は右会社の増資の払込に充てるため父安田浅之助より昭和三十九年三月十二日金五百四十九万六千十六円、同月十八日金九十四万千六十二円合計金六百四十三万七千七十八円の贈与を受けたものである。ただ後者の分については原告もこれを認めるので本件における唯一の争点である前者につき詳説せんに、株式会社十六銀行今沢町支店における右安田浅之助の所有する架空名義の定期預金六口計金五百四十九万六千十六円(利息を含む)が昭和三十九年三月十二日解約せられ、同日右金額が右銀行支店における原告名義の普通預金口座(口座番号五三七)に預入れられた。そして原告は同日右普通預金口座から五百四十万九千百三十二円を引出して同銀行の原告名義の定期預金(番号一四二二)を設定し、更に昭和三十九年三月十八日この定期預金と他の原告名義の定期預金金五十万円(番号五四六)をもつて原告が右会社の増資払込金に充てるため右銀行から借入れた金五百九十万円の手形借入金の担保に供した。その後右定期預金金五百四十万九千百三十二円は昭和四十年三月十二日(締後のために処理は三月十三日)に右手形借入金の残額金五百三十七万円(手形借入金五百九十万円の内金五十三万円は昭和四十一年三月十二日右担保定期預金(番号五四六)の解約金金五十二万九千五百十円と原告名義普通預金口座より引出した金四百九十円計金五十三万円をもつて返済された。)と相殺され右手形借入金との差額金三十二万千七百五十七円(相殺時までの定期預金の利息金二十八万二千六百二十五円を含む)は同日右銀行の原告名義の普通預金口座に預け入れられたのであり、この事実からみて安田浅之助所有の架空名義定期預金が解約されてその解約金金五百四十九万六千十六円が原告名義の普通預金に預け入れられた以後は原告の資金として運用されていることが明らかであり、右は安田浅之助から原告に贈与されたもので、原告の主張するような原告が右銀行からの借入金の担保に供するために安田浅之助から右の解約金を原告名義で預金してもらつたというようなものでは絶対にない。又原告は仮に、被告の認定したごとく、原告が安田浅之助より贈与を受けていたとすれば原告は右の預金を増資払込金に充てれば足りるから預金を担保として借入する必要性はない。と主張するけれども、安田浅之助も自己所有の架空名義定期預金を解約して同人名義の普通預金口座(番号五三六)に預入れをなし、右の普通預金口座から引出して同人名義の定期預金を設定し、更に右定期預金を担保に銀行から手形借入をなし、その借入金をもつて自己の右会社に対する融資払込金に充て、その後右担保定期預金は右手形借入金と相殺されていることが確認せられているのでこの点に関する原告の主張も失当である。却ち右会社の増資にあたり原告がその増資払込資金源の追及を隠ぺいするために銀行から融資を受けたという外観をとつたに過ぎない。しかも本件を実質的にみると原告が安田浅之助から取得した資金によつて右会社の新株式の株主となり財産を取得することになるから安田浅之助が息子である原告に右新株式取得のための資金を贈与したことになる。即ち被告岐阜北税務署長のなした本件処分には何らの違法はない。と述べた。

証拠として、被告らは乙第一乃至第八号証を提出した。

案ずると行政事件訴訟法第十条第二項に関する被告名古屋国税局長坂野常和の主張は理由があり、同被告に対する訴は失当として棄却する。請求の原因たる事実(一)乃至(四)の点は当事者間に争がない。而して第三者の作成にかかり真正の成立を認むべき乙第一乃至第八号証と弁論の全趣旨によると原告が昭和三十九年三月十二日安田浅之助より金五百四十九万六千十六円の贈与を受けたことを認定することができる。原告が四月十八日安田浅之助より金九十四万千六十二円の贈与を受けたことは原告の認めるところである。右の争ある贈与に関する原告の所説は右各証拠により認定することのできる被告らの同争点に関する主張事実に対比して到底これを肯うことはできない。即ち原告が安田浅之助から贈与を受けた右二口の合計額は金六百四十三万七千七十八円となるので右の贈与額を右の範囲内である金六百三十七万五千二百七十六円と認定してなした被告岐阜北税務署長鈴木達郎の原処分は相当でこれを取消すべき瑕疵も認められないので、同被告に対する原告の請求を失当として棄却し、民事訴訟法第八十九条により主文のように判決する。

(判事 小沢三朗)

別紙

贈与税の課税標準等および税額等の計算書

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例